東北DCの価値と未来
周遊の中で216の魅力を提供 持続可能な東北観光の礎に
――コロナ禍の中、4月1日から東北デスティネーションキャンペーン(DC)が始まった。手応えは。
「コロナ禍で緊急事態宣言が発令されるなど、首都圏を含め、全国から県をまたぐ流動となると限定的となり厳しい状況にある。影響を受け、昨年度予定していた全国宣伝販売促進会議やキックオフ会議は中止に。全国キャラバンも難しくなった。その中でも、デジタルを使い旅行会社等に情報発信するなど、地元と何ができるかを考え、できることから取り組みを進めてきた。例えば、オープニングを飾った新幹線『東北DC復興号』では罹患(りかん)防止対策をし、無事に運行をした。このように、地元、お客さまと三位一体で感染防止対策をしながら安全な移動の提供ができたことは成果である」
――今回のテーマは。
「六つのテーマ((1)花(2)自然・絶景(3)歴史・文化(4)酒・食(5)温泉(6)復興)を用意し、東北の魅力を創出している。6県、6カ月でDCが実施されることから、6テーマ×6県×6カ月=216の魅力が生まれる。ぜひ周遊しながら216の魅力を体験、体感してもらいたい。また、今回はテーマの一つに復興がある。今まで支えていただいた方々に感謝をさせていただくとともに、元気になった東北を見ていただきたい。このほか、MaaSやキャッシュレスなど、デジタルや非接触を追求するほか、他企業などとの連携にも力を入れている。今回は、移動、旅の利便性を高める観光型MaaS『TOHOKU MaaS』を提供するなど、デジタル化は強く意識している。また、人の移動だけでなく、産直市などを通じて物の交流も行い、東北の地産品が全国レベルでのブランド化となり地元の宝となるきっかけとしたい」
――6月以降の展開は。
「9月末まで、状況を見ながら地域と連携し、感染防止対策、プロモーションなどを東北DC推進協議会と協働し、きめ細やかに取り組みを進めていく。今回は、DCならではの取り組みとして特別企画列車がある。通常と異なるエリアで運行されるので、地酒や郷土料理等の地域ならではの食とともに列車の旅を楽しんでほしい。また、『お先にトクだ値スペシャル』を設定し、東北、山形、秋田、北海道新幹線を通常価格の50%割引で提供している。こうした切符を活用して東北を訪れていただきたい」
――東北DCが生み出すものとは。
「DCは、昔だと大々的にプロモーションをして送客するということに力を入れていたが、今はそれに加え、今後に向けてのきっかけづくりも意識している。DC期間中の送客のみならず、一過性でないサスティナブルな東北観光の礎となる仕組みを地元としっかり向き合い作り上げる」
――東北DCの開催期間中に東京オリンピック・パラリンピック(オリパラ)が開催される。効果は。
「昨年6月のある調査で、アジア圏の方がコロナ収束後に行きたい国として日本が1位になったと発信された。オリパラでは、東京、日本がフォーカスされ、メディアを通じて観光地や地域の魅力が発信されるはずだ。復興庁でも『復興五輪』を目的の一つとして掲げていることから、東北の関係者と連動しながらきめ細やかに東北の魅力を国内外に伝えていきたい」
――東北エリアにおける観光の課題は。
「従来から接続交通の分かりにくさは課題である。広域をカバーする交通網はなく、連携を深めて対応していきたい。例えば、MaaSをプラットフォームとした情報を連携し、ワンストップで利用できる仕組みを考えていきたい。また、インバウンドは19年の東北のシェアは1.7%だった。旬な情報などを丁寧に伝え、目を向けてもらえるようにしたい。デジタル、キャッシュレスの導入拡大、人口減少、人手不足の問題に対しては、自治体を含め、地域と連携しながら、皆がウィンウィンとなるように全力で課題解決に取り組んでいく」
――現在の観光業界市況をどう捉えているか。
「いろいろなものがハイブリッドになる中、リアルの移動はなくならないだろうし、再び価値も上がっていくはずだ。リアルが生み出す非日常、リアルだからこその経験など、価値を観光産業として突き詰めていかなければならない」
――今後、東北・JR東日本管内における観光分野での未来をどう描くのか。
「デジタルでは情報発信、予約、販売、リアルでは顧客接点型拠点『駅たびコンシェルジュ』などを通じて地元とつながるなど、デジタルとリアルのハイブリッドを突き詰めていく。また、価値が変わる中、集中と分散を適切に行い、時代に合ったサービスを提供していく。DCをきっかけに生まれた関係人口をレガシーとし、地域ともう一度東北らしさ、信越らしさなど、地域の良いところを磨き、尖らせていきたい」
※さかもと・みきこ=JR東日本常務執行役員鉄道事業本部営業部担当観光担当オリンピック・パラリンピック担当。1989年JR東日本入社。人事部、営業部などを経て、2007年に水戸支社営業部長に就任。大宮支社営業部長などを経て15年に執行役員大宮支社長に。執行役員鉄道事業本部営業部長を経て19年6月から現職。
【聞き手・長木利通】